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令嬢は元暗殺者に恋をする
第17章 あなたの瞳に私をうつして
「あいつを怒らせたらどうなるか、わかっていないようだね」

 まあいい、とハルは背を向けて歩き出そうとする。

「待って!」

「礼を言うなら俺ではなく、シンとあいつに言え」

 あいつと言って、ハルはちらりと視線を横に傾ける。

 いつの間に集まってきたのか、ハルの視線の先にシンの仲間と思われる、裏街の男たちがこちらの様子をうかがうようにずらりと並んでいた。

 騒ぎを聞きつけて、駆けつけてきてくれたのだろうか。
 その中のひとり、自分と同じ年くらいの少年が、おろおろと落ち着かない様子でこちらを見つめ立っている。

「俺がここに来たのは偶然ではない。あんたがこの裏街に踏み込んだときのことを考え、万が一何かあった場合はあんたを助けるようにと、シンが仲間に伝えていた。その仲間のひとりが、たまたま俺を見かけて、あんたの危機を知らせてくれた」

 ハルに自分のことを知らせたという人物が、心配そうにこちらを見ているあの少年なのだろう。

「ごめんなさい……」

「あんたはどれだけの人間を巻き込んで、迷惑をかければ気がすむ」

 ハルの言葉にうなだれる。
 返す言葉が見あたらなかった。

 ハルは間違ったことを言ってない。
 わかっている。
 これは謝ってすむ問題ではない。
 自分のわがままのせいで、たくさんの人に迷惑をかけてしまった。

 それに……。

 私のせいで、ハルに人を殺させてしまうところだった。
 あの時、私が止めなければ、ハルはあの男たちを殺していたかもしれない。

 そう思うと、恐ろしさに身がすくんだ。

 そんなこと望んでいないのに。
 私、本当に何も考えていなかった。
 もうここには来ない。
 でも、私の思いだけは伝えなければ。
 今、伝えなければ、きっとハルには二度と会えない気がする。
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