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令嬢は元暗殺者に恋をする
第17章 あなたの瞳に私をうつして
「あんたには負けたよ」

 思いもよらなかったハルの言葉に、一瞬、自分の耳を疑った。

「じゃあ!」

 サラはぱっと表情を輝かせた。が、すぐに戸惑いに瞳を揺らす。
 怖いくらいに真剣なハルの表情に、サラはぞくりと背筋を震わせた。

「俺の心に踏み込んでくる覚悟が、本当にあるのか?」

 ハルの言葉をサラは心の中でゆっくりと繰り返す。
 もちろん、覚悟はできている。
 立ち上がって、サラはこくりとうなずいた。

「あるわ」

「なら、俺が命をかけてもいいと思えるほどの女になってみな」

「そうしたら、私のことを好きになってくれるのね?」

 茶色の瞳を揺らして、サラはハルの顔を真剣に見つめ返す。
 ハルがゆっくりと近寄ってくる。
 伸ばされた指先がサラの頬に触れた。
 顔を傾け、ハルの唇が耳元へと近づく。

「これ以上はないってほど、愛してやる。ただし、この俺を本気にさせることがあんたにできればね」

 ささやくハルの唇がかすかに耳に触れ、サラは息を止め身を強ばらせる。
 目眩にも似た感覚を覚え、膝が震え立っているのもやっとであった。

「今の言葉、絶対に忘れないで。もう、私をさけたりしないで。約束よ、ハルの心を手に入れたら、私をずっとハルの側にいさせて……お嫁さんにして!」

「ああ、いいよ」

 サラは一瞬、呆気にとられた表情を浮かべる。

 勢いに任せて、お嫁さんにしてなどと、とんでもないことを言ってしまったと後悔したのに、返ってきた答えはあまりにもあっさりとしている。
 もしかして、またからかわれているのでは? と疑ってしまう。

「一生大切にしてやる」

 胸がどきりと鳴った。
 よもや、ハルの口からそんな言葉が出るとは思いもしなかったから。

「ほんとね? 嘘じゃないわね?」

「嘘はつかないよ」

 サラは泣きそうな顔で唇を震わせた。
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