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令嬢は元暗殺者に恋をする
第2章 出会い
「あいつ……薬を飲ませてやろうとしただけなのに、隠し持っていたナイフで……」

 斬りかかってきた、とテオは顔をしかめ吐き捨てた。

 頬を押さえていたテオの手のひらから一筋の血が流れ落ちていくのを見て、サラは小さな悲鳴を上げた。

 何とか、平常心を取り戻そうと装ってはいるが、テオの碧の瞳は押さえきれない怒りの感情に揺れているのがはっきりと見受けられた。
 さらに、たたみかけるようにテオは言葉をついた。

 矢継ぎ早にでる彼の言葉をまとめると。

 治療に時間がかかってしまったのは、あの少年が治療を受けさせまいと抵抗して先生を困らせたせいであること。

 そんな少年を何とか宥め、いざ、治療に取りかかろうとしたら今度は麻酔はいらないとごね始めたなど……。

 テオの言葉を確かめるように、サラはベゼレート医師をかえりみる。

 どうやら、嘘ではないらしい。

「テオ、わたしは大丈夫なのですから」

 心配げな顔をするサラを気遣って、ベゼレートはテオを軽く宥めた。

 不意に意を決したようにサラは唇を堅く引き結び、診察室へと向かって歩き出す。しかし、すぐにテオに腕をつかまれ引き止められる。

「やめた方がいい」

「でも、会いたい」

 必死な目をするサラの両肩に手を置き、テオは真っ向から瞳をのぞき込む。

 そして、まるで幼い子どもに言い聞かせるように彼は言う。

「だめなものはだめだ。あいつとかかわってはいけない。それに……」

 テオの眼差しが厳しいものへと変化した。

「あいつは……」

「テオ。ここは彼女に任せてみてはどうでしょうか」

 相変わらず穏やかな微笑みと柔らかな口調で、ベゼレートは何かを打ち明けようとしたテオの言葉を遮ってしまった。

 やむを得ずテオは口を噤んだ。
 否、噤むしかなかった。

 険しく眉をしかめるテオと目を細め微笑むベゼレートを交互に見つめ、サラは身をひるがえし、小走りに診察室へと飛び込んでいった。
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