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令嬢は元暗殺者に恋をする
第18章 カイの秘密
 アルガリタの町、イゼル通りの一角にカイとエレナの住む家があった。
 エレナに導かれるまま中に案内され、サラはそろりと辺りを見渡す。

 ベゼレート先生の診療所以外、他の誰かの家にこうしてお邪魔するのは初めてで新鮮な感じがした。

 入ってすぐに居間、奥には台所、さらに扉の閉まっているもうひと部屋は、おそらく寝室だろう。
 きちんと整理整頓され、家の中はさっぱりとしている。どうやら二人は恋人同士らしく、この家で一緒に住んでいるようだ。

 エレナは普通にこの町でお仕事を持った人。
 一方、カイは裏街の人間。
 それもシンの次に偉くて凄いらしい。

 エレナさんとカイさんはどうやって知り合ったのかしら。

 二人の関係にサラは興味を持ち始めた。

「どうぞ」

 落ち着かない様子で椅子に座るサラの前に、エレナはカップを差し出した。

 湯気の立つカップから、ほっとするような香りが漂い、サラは大きくその香りを吸い込んでふうと息を吐く。

「とてもいい香り」

「ハーブティーよ。サラちゃんのお口に合うといいのだけれど」

 裂かれた服を繕ってもらうため脱いだ服はエレナにあずけている。
 今はエレナの服を借りているのだ。

 サラ自身は気取ったところもなく、どこにでもいる街娘に見られがちだ。だが、着ていた服の素材と仕立てから、サラがいいところのお嬢さんだとエレナは見抜いたらしい。
 カップを両手で包み込み、サラはこくりと一口飲む。

「すごく、おいしい」

 嘘でもお世辞でもない。
 いれてくれた人の愛情が伝わってくるようだった。

「よかったわ」

 手にした盆を胸に抱え、エレナはふわりと微笑んだ。
 エレナさんが微笑むと、サラまで心がほわりとするような気がした。

「サラちゃん、少し待っててね。すぐに服を直してあげる」

「ありがとう、エレナさん」

 とても優しくて、幸せそうに笑う人。

「エレナさんは天使みたいに笑う人だわ」

 ぽつりと呟いたサラの声に、目の前に座るカイという人の口許がふっと和らいだような気がした。
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