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令嬢は元暗殺者に恋をする
第21章 サラのお願い
「おまえ、何さぼってんだ。じゃがいもの皮むきは終わったのか? 玉ねぎは?」

「おまえこそほんとは暇なのかよ! さっきから、うろちょろしやがって!」

 そこで、シンははっとなり。

「あの……お兄さん……」

 シンはちょっとちょっと、と手を招いてテオをこちらに呼び寄せる。
 露骨にテオは嫌な顔を作り、不機嫌そうな態度をとる。

「何だよ? 僕はまだ仕事中なんだぞ。おまえとは違って忙しいんだ」

 返ってきたテオの辛辣な言葉にもかまわず、シンはサラが去って行った方向を指さす。

「彼女はいったい何者なのでしょうか?」

 妙に改まった口調で問うシンに、テオは不思議そうに眉をしかめ、そしてなるほど、と口許に薄い嗤いを刻んだ。

「知らなかったのか?」

 はあ……とシンはうなずく。

「サラはトランティア侯爵のご令嬢だよ」

 今度は、はあ? と聞き返した。
 ご令嬢と言うからには、それはそれは素晴らしい家柄のお嬢様なのであろう。
 けれど、そんな世界とは無関係の者に、いきなり貴族の家名を言われても耳に馴染みがないというのが事実だ。
 テオは意地の悪い笑みを浮かべ、さらに、とどめとばかりに言い放つ。

「つまり、王家と縁のある貴族のお嬢様だ」

「お、お、お、王家……?」

 シンは言葉をつまらせた。そして、口を開けたままテオを見つめ返す。

 王家だって……? 
 王家に縁のある貴族のご令嬢?

「あれがか?」

 シンは思わず、思っていたことをそのまま口にした。

「ま、まあ……小さい子はあのくらい元気なほうがいいんだ」

 テオはうんうんとうなずく。

「いやいや、小さいっていうほどの年でもないだろ」

「ま、そういうことだ。もしも、王家の世継ぎが女子ではなく、男子であったなら、ゆくゆくは彼女は王妃という身分になるはずであったお方なんだよ」
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