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令嬢は元暗殺者に恋をする
第21章 サラのお願い
 現在、アルガリタ王家の世継ぎに男子はいない。
 存在するのは、王女ただひとりのみ。

「おまえにとっては口も聞くのも恐れ多いお方。それがわかったなら、少しは彼女に敬った態度で接するんだな」

 ははは、とテオは彼らしくない意地の悪い笑い声を上げて、冷ややかにシンを見下ろす。
 ところが、そんなテオの目に師であるベゼレートの姿が映ると、彼は突然ぱっと表情を輝かせ、にこやかな笑みを浮かべるのであった。

 この豹変振りにはさすがに呆れてしまう。

「先生! お疲れでしょうが、次の患者さんがお待ちかねです」

 目の前のシンになどもう興味がないとばかりに、テオは師を追いかけ軽快な足取りで去っていく。

 何てことだと、シンは緩く首を振る。
 その大貴族の夜会に、この俺を連れていくだって?

 何考えてんだよ、あいつ!

「い、嫌だ! 俺は絶対に嫌だぞ!」
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