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令嬢は元暗殺者に恋をする
第21章 サラのお願い
 両手を腰にあて、サラは布団を頭まで引き寄せ、身体を丸めて眠るシンを見下ろした。
 もうじき正午を告げる鐘の音が鳴ろうという時分なのに、いっこうに目覚める気配はない。
 気持ちよさそうな寝息が布団の中から聞こえてくる。

 もう、仕方がないわね。

 サラは大きく息を吸い、シンの布団に手をかける。

「いつまで寝てるのかしら……っ!」

 勢いよく布団をはぎ取った瞬間、サラは声にならない悲鳴を上げ、布団をシンの身体の上へと放り投げた。

「ど、ど、どうして!」

「……ん?」

「どうして裸で寝てるの!」

 サラの顔が耳まで真っ赤に染まる。

 半分まぶたのおちた寝ぼけた顔と、間の抜けた声を上げ、シンはのろりと半身を起こす。

 どうやら、まだこの状況が理解できていないらしい。
 時には優しく時には悪戯気に、そして、時にはぞくりとするような危険をはらむ濃い紫の瞳も今はどこかぼんやりとしている。

 ほつれた長い髪が首筋、胸へと落ち、なんとも色っぽい姿だ。
 これが裏街で恐れられている男だと、誰が思うだろうか。

 早く服を着て、とサラに促され、シンはまだ眠そうな顔で脱いであった自分の服に手を伸ばす。その瞬間、腰のあたりに掛けてあった布団がはらりと床へ落ちた。
 再びサラは悲鳴を上げた。

「ばかばかっ! 信じられない!」

 手で顔を覆い、慌ててサラはシンに背を向ける。
 一方、サラの大声ですっかり目覚めたシンは、不機嫌そうに頭をかいていた。

「まったく、朝から……」

「昼よ!」

 そこで、シンはうっと声をつまらせた。
 そろりと窓の外に視線をあてると、確かに太陽の位置が高い。

「と、とにかく、早く服を着て!」

 シンに背中を向けたまま、サラは怒ったように声を上げ、いやいやと首を左右に振る。
 そんなサラに、シンはふふんと目で笑い、何を思ったのか……。
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