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令嬢は元暗殺者に恋をする
第23章 抱きたい
「それでね、お料理もとても上手なの、もちろんお裁縫とかも得意で、とにかく女性らしいの」

 シンはそっとまぶたを半分落とした。
 そのまぶたの奥の濃い紫の瞳が切ない感情をともなって揺れる。

「しっかりとした人で、でも、怒ると怖いのよ。あたってる?」

 シンは緩やかに顔を上げ、夜の空に視線をさまよわせた。

 夏の夜空に星が冷たく光る。
 天頂に一際明るい光を放つ星は天白星。
 その天白星がいつもりも強い光を放っているような気がした。

「シン……?」

「ああ、ごめん。久しぶりに母さんのことを思い出して……」

 遠い昔のことだ。
 今となっては、母のおもかげすら薄れてしまったほどに遠い過去の記憶。
 しばしの沈黙の後、シンは再び口を開いた。

「殺されたんだ。俺の目の前で」

 途端、サラは表情を強ばらせ、口許に手をあてた。

「八歳の時だった。突然現れた賊に村を襲われて……村も村人も俺の父も母も友達も……全員、奴らに殺された。生き残ったのは俺ひとりだけ。その後、俺は生きるためならどんなこともしてきた……」

「シン……」

 両手を伸ばしてきたサラにふわりと抱きしめられた。
 小さな手が優しく背をなでてくれる。
 こんなこと、話すつもりなどなかったのに。
 シンはサラの肩にひたいを添えた。

 サラの身体から仄かに甘い香りが漂ってくる。
 香水でもない、お化粧の香りでもない、彼女自身の甘い香り。
 サラの腰に回した手にそっと力を入れてみる。
 女の子特有の柔らかい感触が手に伝わってくる。

 もしも、あいつよりも先に俺と出会っていたら、サラは俺のことを好きになってくれただろうか。
 いや、それでも、サラはきっとあいつを選ぶだろう。
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