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令嬢は元暗殺者に恋をする
第24章 望まない婚約者
 俺の心配をしてくれているのか?

 そんなサラが愛おしいと思った。
 自分の全てをかけても彼女を守ってやりたいと思った。だから、なおさらこの男が許せなかった。

 ファルクは大仰な仕草で肩をすくめた。

「今のは聞かなかったことにしておきましょう。なにしろ、私は寛大ですからね。だいいち、おまえのような若造の出る幕などないのですよ。彼女は私の婚約者、私が彼女をどう扱おうと、おまえには関係のないこと。わかったら、彼女をこちらへと渡していただきましょうか」

 否、と即座にシンは切り返す。

「女に手をあげるような奴にサラは渡せない。それに、サラはあんたといたくないって。あんたといるよりも、得体の知れない俺といるほうが楽しいってさ。あんた、そうとう嫌われてるな。婚約者としての面子丸つぶれだ」

 ファルクはまなじりを細め、にっと唇の端を持ち上げて嗤った。それでも、自分の方が間違いなく有利であるいう自信と驕傲な態度は崩さなかった。
 余程、自信があるのか、シンが豪語するのも、ただうるさい犬が吠えている、くらいにしか感じていないようだ。

「君も強情だね。女の前だからといって格好をつけたがる気持ちもわかるが、私を誰だと思っている? 怪我をしたくないだろう?」

「確かに、痛い思いをするのは嫌だな」

「ならば、さっさと退くがいい」

「だけど、そうもいかない」

「賢くない人間だね。本当に痛い目をみなければ、わからないってことか。それに、貴様何者だ。貴族ではないな。どうやってここへまぎれ込んだ」

「どうやって……って」

 シンは言葉をつまらせ、参ったな、というようにこめかみのあたりを指でかく。
 どうやっても何も、半ば無理矢理サラにここへ連れられてきたのだから。

「捕らえて役人に突き出してやろう」

 ファルクは腰の剣に手をかけようとする。が、すかさずシンは手で制した。

「やめておけ。さっき、言っただろ? 俺を怒らせて無事でいた奴はいないって」

「ふん、こざかしい!」

 一笑して、ファルクは剣を抜き放つ。
 シンは大きなため息をこぼし、どうなっても知らねえぞと呟いて、腰にさげていた剣を握りしめる。

「シン! お願いやめて。私あいつの言うこときくから……嫌だけど、あいつと踊ればいいだけ。だから、絶対に戦っちゃだめ!」
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