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令嬢は元暗殺者に恋をする
第25章 狂乱の円舞曲
 それは自信に満ちた声だった。

「どうしてそんなことが!」

「わかるかって? 見ればわかるよ」

 シンは不敵な笑みを浮かべ、まぶたを半分落とすと、サラのすぐ背中で剣の鞘と柄を握りしめた。

「そんなの!」

「サラ、動かないで。怪我をするよ」

 低い声を落とし、シンはサラの背後でゆっくりと剣を抜いていく。
 鞘を滑る剣の音を背中で聞き、サラは怯えて小さな悲鳴を上げ、シンの胸に手を添えしがみついてきた。
 身体を動かしたら、怪我をしてしまうおそれがあると思って。

 剣を抜いたシンは、腕の中ですっかりおとなしくなってしまったサラを見下ろし、彼女を安心させる言葉を継ぐ。

「俺を信じて」

 迷いのないシンの声にサラはそろりと視線を上げた。
 まだ戸惑いの表情を見せつつも、サラは小さくうなずく。

「そうだ。ひとつだけ、俺のお願い聞いてくれるか?」

「お願い?」

「キスしていい?」

 一瞬、サラの茶色の瞳が動揺するように揺れ動いた。
 いやとは答えなかった。
 ほんの少しためらった後、サラは手を胸の前でそっと組む。

 上背のあるシンを見上げるようにして顔を上向け、ゆっくりと静かにまぶたを落とした。

 青ざめたサラの顔に淡い月影が落ちる。
 閉じた目の縁に涙をため、サラは濡れたまつげを震わせた。

 シンは形のよい眉をひそめて、視線を斜めに落とす。
 この状況で、サラが断れないとわかっていながら、こんなことを言い出す俺も悪い男だよな。

 それも婚約者だという男の目の前で。
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