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令嬢は元暗殺者に恋をする
第25章 狂乱の円舞曲
 シンの左手が愛おしげにサラの頬に触れる。
 サラのまぶたがぴくりと震えた。
 かすかに開いた薄紅色の唇から震えるような小さな吐息がもれる。
 耳の脇の髪に手を差し込み、そして、首の後ろを支えるように手のひらを添えた。

 サラの頬にほんのりと赤みが差す。

 サラ……。
 あいつとうまくいくことを祈ってるよ。
 だから、俺はここでさよならだ。

 ゆっくりとサラの顔に近づくシンの唇が、サラの頬に軽く触れた。
 驚いたように目を開け、サラは頬に手をあてる。

 彼女自身も覚悟を決めていたはずなのに、まさか頬に口づけをされるとは思ってもいなかったらしい。しかし、驚いたのはサラだけではなかった。
 シンは顔を赤らめ照れたように、でも、嬉しそうに顔に手をあてた。

 何照れてんだよ俺。
 女を知らないわけでもあるまいし、この程度で顔赤くして、がきかよ。

「すぐに片づける。それと……」

 今の表情(かお)よかったよ、と腰を屈めサラの耳元でささやくと、ようやくシンはファルクと向き合った。
 剣を一振りして、シンは再びファルクをかえりみる。
 わずかに反った刀身の切っ先は、まるで、さながら満ちかけた月の鋭さを思わせた。

「すぐに片づけるだと? その言葉が泣き言に変わるのが私は楽しみだよ」

「俺はてめえのその鼻っ柱を叩くのが楽しみだ」

「言っておくが、私は強い」

 ファルクはにやりと口許を歪める。

「なら、こっちも遠慮はいらねえな。まあ、殺しはしないから安心しろ。軽く遊んでやる」

 戯けた仕草でシンは肩をすくめる。だが、その口調と態度とは裏腹に、相手を見据えるその目は笑ってはいなかった。
 ファルクは隙のないかまえで剣を持ち上げた。同時に、シンも剣をかまえる。
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