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令嬢は元暗殺者に恋をする
第25章 狂乱の円舞曲
「ごめんなさい」

「いや、謝らなければいけないのは俺のほうだ」

 あの時は、サラに拒むことを許さず、何としてでもうなずかせて自分のものにしてしまおうと思った。
 たぶん、あのファルクという野郎が現れなかったら、間違いなくそうしていただろう。

 確かにあの時は本気だった。
 だけど今は……。
 だから、これでよかったのだと、無理矢理自分に言い聞かせることにした。

「あのね、私シンのことが好きよ。だけど、その好きはハルの好きとは違うの」

「わかってる」

「でも私、シンと出会えてよかったと思ってる。ほんとよ」

「ああ」

「さっきも言ったわよね。私、シンと出会ってからたくさん笑ったし、すごく楽しかった」

「俺も楽しかったよ」

 振り回されてばかりだったような気がしないでもないけど。
 それでも、楽しかったと思う。

「裏街に行ってとっても怒られたけど、でもカイやエレナさんとも出会えた」

「あの時はひやりとさせられたけどね」

「口紅も嬉しかった。こんな嬉しい贈り物は初めて。それに、星の物語も初めて知ったの。すごくわくわくした」

 しかし、サラは突然表情を曇らせた。

「シン……私ね、もうベゼレート先生の所に戻れないの」

「俺も裏街に戻るよ」

 サラは瞳を揺らした。

「私、八十八の星の物語、全部聞いてない」

 シンは静かに笑って、ごめんなとサラの頭をなでる。

「どうして? どうして、ごめんって言うの? 何故あやまるの?」

 シンは静かにまぶたを伏せた。
 途端、サラの目に大粒の涙が盛り上がった。

「また、会えるわよね?」

 おそるおそる問いかけてくるサラにシンが答えることはなかった。
 ただ、口許にかすかな笑いを浮かべるだけ。
 サラの目からひとしずくの涙が落ちた。
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