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令嬢は元暗殺者に恋をする
第25章 狂乱の円舞曲
「もっとシンと一緒にいたい」

「そう言ってもらえて嬉しいけど、それは俺に言う言葉じゃないだろ?」

「でも!」

「ごめん。サラを泣かせたくないって言っておきながら、俺が泣かせているんだよな」

 シンはそっと手を伸ばし、サラのこぼれ落ちる涙のしずくを指先ですくいとった。
 それでも、あとからあふれ落ちる涙で頬を濡らすサラの顔を見て、シンは戸惑いの表情を浮かべる。

「サラ……」

 思わず抱きしめようと伸ばしたシンの手が虚空でとまる。
 とまったまま、手をきつく握りしめ震わせた。
 これ以上サラに触れてしまったら、抱きしめてしまったら、必死で抑え込んでいる感情が爆発してしまいそうだったから。
 みっともない自分をさらしてしまいそうだったから。

 伸ばした手を引き、シンは乱れかけた心を落ち着かせるように息を吸って吐き出した。と、同時にシンの心に一つの決意が過ぎった。

「俺もほんとお人好しだな」

「え?」

「いや……あのさ俺、必ずあいつを、ハルをサラの元に連れてくる。サラに会わせてやる」

「シン……」

 やっぱり、サラには笑っていて欲しい。
 サラが笑顔でいてくれるなら、俺も嬉しいから。
 シンの濃い紫の瞳に切なげな翳が揺れた。

「約束する」

 シンは手にした抜き身の剣を地面に突き刺すと、側の薔薇の垣根から一輪の赤い薔薇を手折り、丁寧に棘をとりのぞいてサラの目の前に差し出した。
 サラはその薔薇に手を伸ばす。

「この薔薇が枯れ落ちるまでに必ず、ハルに会わせてやる。だから、もう泣かないと約束してくれるか?」

 と、シンは微笑んだ。
 サラは手にした薔薇とシンを交互に見つめ、大きくうなずいた。
 うなずいた瞬間、再び大粒の涙がサラの目からぱたぱたとこぼれ落ちていく。
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