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令嬢は元暗殺者に恋をする
第26章 勝負の火酒
 一方、アルガリタの街、夜の歓楽街では──。
 軒並み連なる酒場の一角にハルとシンはいた。
 客が二十人ほども入ればいっぱいの、さほど広くもない店内には仕事帰りの男たちが集まっていた。

 テーブルを埋め尽くす客たちの人熱れと、厨房から発せられる熱で、部屋は蒸した空気が漂っている。
 客の合間を器用にぬって給仕たちが大忙しで動き回る。けれど、そんな給仕の様子など、客にとってはおかまいなしであるのは仕方のないこと。

 客たちはそれぞれに注文した料理の匂いと、厨房からのそれとが入り混じり、いやがうえにも空腹をかき立て、なかなか料理の運ばれてこない苛立ちをつのらせた。

 横から追加の注文を言い出す者や、料理はまだかと催促する者に目を丸くし、なだめすかし、それでも愛想笑いは忘れずに給仕たちは働いている。

 そんなむさ苦しい男たちがほとんどの店内の片隅で、年若い、それも思わず目を瞠るほどの容貌をもった二人の少年の姿はことさら目立った。

「あら、シン久しぶりじゃない。最近姿を見せに来てくれなかったから心配してたのよ。どこに行ってたのよ。寂しかったわ」

 テーブルにつくなり、ひとりの女性給士がシンの姿を見つけ、すかさず声をかけてきた。
 肉感的な美女だ。
 シンに対する馴れ馴れしさから、二人の間に何かしらの関係があることをうかがわせる雰囲気であった。

「まあ、ちょっとね」

 シンは曖昧に笑って受け流す。
 ふと、女の視線がちらりとハルに向けられた。途端、女は息を飲み頬を赤らめる。

「シンのお友達? 異国の人? それにしても、ずいぶんときれいな人ね……ねえ、シン紹介して」

「だめだめ。こいつ、こう見えてかなり獰猛だから近寄らない方がいいって」

「そうなの? 全然そうは見えないわよ」

「だから危険なんだよ」

 ふーん、と女はどこか残念そうにハルをもう一度見る。
 一方、ハルは女の視線などまったく無視であった。
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