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令嬢は元暗殺者に恋をする
第26章 勝負の火酒
「それよりもさ、カナル、あれ持ってきて」

 カナルと呼ばれた女性給士は、あれと聞きいて目を見開き、シンとハルを交互に見つめていたが、やがて、その艶やかな朱い唇に何やら含むような笑いを浮かべた。

「わかったわ。あれね、今すぐに持ってくるわ。これはちょっとおもしろそうなことになりそうね」

「だろ? 盛り上げてやるよ」

 カナルはふふ、と笑いテーブルから去って行った。
 
「ところで、手折った薔薇ってどのくらいもつか、おまえ知ってるか?」

 突然、脈絡のないことを言いだしたシンに、ハルは眉根を寄せただけであった。
 もっとも、シンもハルに答えを求めているわけでもないらしく。

「三日……四日? いや、一週間くらいはもつか?」

 どちらにしてもあまり時間がねえな、とぶつぶつ呟いて腕を組み、うーんと唸っている。
 そんなシンをハルは冷めた目で見つめた。

「いきなり俺をこんなところに連れて来て、そんな話か?」

「まあ、そう言うな。どうせすることもないし、暇なんだろ? それにおまえだって、気になるだろ?」

「何が」

「この数日間、俺とサラが何をしていたかってこと」

 シンの口からサラの名前がでたことに、ハルはわずだが反応を示したようだ。

「ずいぶんと、あいつと親しくなったみたいだな」

 まあね、とシンは意味ありげに笑う。

「その話をしつつ、俺と勝負をしないか?」

 勝負? と、ハルは訝しげに眉をあげた。

「おまえと剣での勝負じゃ、絶対に俺に勝ち目はない。というより、二度と俺はおまえに剣を向けたくはない。死ぬ思いをするのはもうごめんだからな。ということで、勝負の方法は……」

「シン、おまたせ。持ってきたわよ」

 現れたカナルが手に持ってきたもの。
 それは一本の酒瓶であった。
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