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令嬢は元暗殺者に恋をする
第3章 あなたのことを知りたい
 一瞬、殺されるのかと思いひやりとした。

「脅してもむだよ」

 すかさず、そんな脅しには動じないという強気な姿勢でサラは言ってのける。

「脅しかどうか、試すか? 女だからといって容赦はしない」

 ぐっと喉を鳴らし、サラは握られていないもう片方の手を、相手の頬めがけて振り上げた。が、その手も難なく封じられてしまう。

「よほど泣かされたいみたいだな」

 さらに力が込められた手首にサラは顔をしかめた。けれど、この痛みのおかげで、かろうじて冷静さを保つことができた。

「手を離してちょうだい。それに、そんな傷をおった身体で何をするつもり」

 しばしの間二人は視線をそらさず睨みあっていたが、やがて、根負けしたのは意外にも少年のほうであった。

「あんた、震えてるよ」

 サラは顔を赤くして、握られていた手首を払いのけた。

「犬や猫でも拾う感覚で俺をここへ連れてきたのだろうが、だとしたらとんでもない拾いものをしたな。なんなら、俺を役人につき出せば?」

 別にかまわない、と落ち着き払った声で少年は言う。もっとも、おとなしく役人に引き渡されるつもりはないであろうが。

 サラの表情から、先ほどまでの強気の色が失せていく。

 不安だった。
 怖ろしさのあまり足がすくみそうだった。
 自分のくだした決断が正しいわけがない。

 立ち上がったサラは扉へ向かって歩き出し、勢いよく戸を開け放つ。
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