この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
令嬢は元暗殺者に恋をする
第30章 私はハルだけのもの
闇を照らす皓々と輝く月を背に立つしなやかな姿。
「ハル!」
顔をほころばせ、その名を呼ぶと同時に勢いよく相手の胸に飛び込んだ。
もう離さないとばかりにその背に両手を回し、きつくしがみつく。
「会いにきてくれたのね! ハル!」
けれど、喜びにうち震えるサラの両腕にハルの指が強く食い込んだ。
容赦なく締めつけてくるその痛みに眉をしかめ、サラはハルを見上げる。
見下ろしてくる瞳の峻烈さに、怒りと苛立ちを感じるのは気のせいか。
「ハル? 腕、痛い……ねえ、どうしたの? そんな怖い顔をして」
つかまれた腕の力は少しも緩むことはなく、それどころかいっそう手加減なしに締めつけてくる。身動ぐことすら許されず、サラは何故? と不安に瞳を揺らす。
「おまえは優しくしてくれる男なら誰でもいいというのか」
低く押し殺した声が静かな夜を震わせた。
厳しい口調にサラは身をすくませる。
何かハルを怒らせるようなことをしてしまったのかと考えるが、心当たりはなかった。
「何のことかわからない」
「おまえはシンに」
サラはあっと声を上げた。
「そうなの! あのね、シンがハルに会わせてくれるって」
「あいつと会う約束をしたって」
「そんな約束してない」
「あいつのために菓子を作るって」
「お菓子? ハルは私の料理、食べたことあるじゃない。まずくて食べられないって言った。具合が悪くなるって」
「あいつを好きだって」
「好きとは言ったけど、それは……」
「俺よりも、優しいあいつがいいと」
「違うわ。シンの好きはハルの好きとは違うって」
「あいつとキスをした」
一拍の間を置いて、サラはわずかに視線を斜めにそらし小声で答える。
「……してない」
「へえ」
ハルの指先があごにかかり、正面を向けさせられる。
「俺に嘘をつくのか」
「頬に少しだけ……軽く。ねえ、どうして怒っているの? 私に会いに来てくれたんじゃないの?」
ハルは何を勘違いしているのだろうか。
シンのことが好きだと、どこからそんな誤解が生じたというのか。
「ハル!」
顔をほころばせ、その名を呼ぶと同時に勢いよく相手の胸に飛び込んだ。
もう離さないとばかりにその背に両手を回し、きつくしがみつく。
「会いにきてくれたのね! ハル!」
けれど、喜びにうち震えるサラの両腕にハルの指が強く食い込んだ。
容赦なく締めつけてくるその痛みに眉をしかめ、サラはハルを見上げる。
見下ろしてくる瞳の峻烈さに、怒りと苛立ちを感じるのは気のせいか。
「ハル? 腕、痛い……ねえ、どうしたの? そんな怖い顔をして」
つかまれた腕の力は少しも緩むことはなく、それどころかいっそう手加減なしに締めつけてくる。身動ぐことすら許されず、サラは何故? と不安に瞳を揺らす。
「おまえは優しくしてくれる男なら誰でもいいというのか」
低く押し殺した声が静かな夜を震わせた。
厳しい口調にサラは身をすくませる。
何かハルを怒らせるようなことをしてしまったのかと考えるが、心当たりはなかった。
「何のことかわからない」
「おまえはシンに」
サラはあっと声を上げた。
「そうなの! あのね、シンがハルに会わせてくれるって」
「あいつと会う約束をしたって」
「そんな約束してない」
「あいつのために菓子を作るって」
「お菓子? ハルは私の料理、食べたことあるじゃない。まずくて食べられないって言った。具合が悪くなるって」
「あいつを好きだって」
「好きとは言ったけど、それは……」
「俺よりも、優しいあいつがいいと」
「違うわ。シンの好きはハルの好きとは違うって」
「あいつとキスをした」
一拍の間を置いて、サラはわずかに視線を斜めにそらし小声で答える。
「……してない」
「へえ」
ハルの指先があごにかかり、正面を向けさせられる。
「俺に嘘をつくのか」
「頬に少しだけ……軽く。ねえ、どうして怒っているの? 私に会いに来てくれたんじゃないの?」
ハルは何を勘違いしているのだろうか。
シンのことが好きだと、どこからそんな誤解が生じたというのか。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


