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令嬢は元暗殺者に恋をする
第31章 月夜の蜜会
どこか悲哀さを漂わせる笛の旋律が、静かなる夜の虚空へと溶けていく。
笛から唇を離したハルは閉ざしていたまぶたを上げた。
藍色の瞳がサラを静かに見つめる。
しばしの沈黙が二人を包み込む。
声を出すことも身動きをとることもできず、サラはその真っ直ぐな視線に射すくめられ立ちつくしていた。
やがて、ハルの形のいい唇に微笑が刻まれる。
軽やかな動作でハルは手すりから飛び降りた。
足音すら立てない身軽さであった。
先ほどまでの不安もどこかへ、サラは満面の笑みでハルに抱きついた。
「ハル! ずっと待っていたの。もしかしたら来てくれないかもと思って不安だった。でも、今夜も私に会いに来てくれた」
ハルの細い身体に両腕を回して抱きつき、サラはその胸に顔をうずめた。そして、ハルの手を引いて部屋の中へと招き入れる。
ふと、ハルの視線が文机の上、一輪挿しの赤い薔薇に向けられた。
その薔薇が誰からの贈り物かハルは知っている。
何故なら、贈った当の本人が酒場で嬉しそうに語っていたから。
赤い薔薇には強い意味がある。ましてや、一本だけならなおさらのこと。そして、サラはしおれかけたその薔薇をいつまでも大切に机に飾っている。
たとえ、彼女に深い意図はないとしても。
ハルの瞳に、一瞬だけ不機嫌な感情がちらついたことに、サラは気づかない。
「それほどまでに、俺のことを待ちわびていたと」
仰ぐようにハルを見上げ、サラは頬を紅潮させ大きくうなずいた。
ふっと口許に微笑みを浮かべるハルの指先が、サラの柔らかい鳶色の髪の一房を指先に絡めとる。
「可愛いね」
揺れる毛先が首筋をくすぐりサラは首をすくめた。
サラのあごをとらえ、ハルはゆっくりと身を屈める。
わずかにまぶたを落とし、顔を傾けながら薄く唇を開いてサラの唇に重ねていこうと近づけていく。
目を閉じかけ、サラははっと我に返る。
相手の雰囲気に引きずられ、流されかけるところだった。
「待って……」
慌ててサラはハルの唇を手で押さえた。しかしハルは、唇にあてがわれたその手をとって握り、そのまま指を絡ませ手の自由を奪ってしまう。
サラの瞳が不安げに揺れた。
遠慮なく見つめてくる視線から逃れるように目を逸らすが、ハルのしなやかな指先にあごをとらえられ正面を向けさせられてしまう。
笛から唇を離したハルは閉ざしていたまぶたを上げた。
藍色の瞳がサラを静かに見つめる。
しばしの沈黙が二人を包み込む。
声を出すことも身動きをとることもできず、サラはその真っ直ぐな視線に射すくめられ立ちつくしていた。
やがて、ハルの形のいい唇に微笑が刻まれる。
軽やかな動作でハルは手すりから飛び降りた。
足音すら立てない身軽さであった。
先ほどまでの不安もどこかへ、サラは満面の笑みでハルに抱きついた。
「ハル! ずっと待っていたの。もしかしたら来てくれないかもと思って不安だった。でも、今夜も私に会いに来てくれた」
ハルの細い身体に両腕を回して抱きつき、サラはその胸に顔をうずめた。そして、ハルの手を引いて部屋の中へと招き入れる。
ふと、ハルの視線が文机の上、一輪挿しの赤い薔薇に向けられた。
その薔薇が誰からの贈り物かハルは知っている。
何故なら、贈った当の本人が酒場で嬉しそうに語っていたから。
赤い薔薇には強い意味がある。ましてや、一本だけならなおさらのこと。そして、サラはしおれかけたその薔薇をいつまでも大切に机に飾っている。
たとえ、彼女に深い意図はないとしても。
ハルの瞳に、一瞬だけ不機嫌な感情がちらついたことに、サラは気づかない。
「それほどまでに、俺のことを待ちわびていたと」
仰ぐようにハルを見上げ、サラは頬を紅潮させ大きくうなずいた。
ふっと口許に微笑みを浮かべるハルの指先が、サラの柔らかい鳶色の髪の一房を指先に絡めとる。
「可愛いね」
揺れる毛先が首筋をくすぐりサラは首をすくめた。
サラのあごをとらえ、ハルはゆっくりと身を屈める。
わずかにまぶたを落とし、顔を傾けながら薄く唇を開いてサラの唇に重ねていこうと近づけていく。
目を閉じかけ、サラははっと我に返る。
相手の雰囲気に引きずられ、流されかけるところだった。
「待って……」
慌ててサラはハルの唇を手で押さえた。しかしハルは、唇にあてがわれたその手をとって握り、そのまま指を絡ませ手の自由を奪ってしまう。
サラの瞳が不安げに揺れた。
遠慮なく見つめてくる視線から逃れるように目を逸らすが、ハルのしなやかな指先にあごをとらえられ正面を向けさせられてしまう。

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