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令嬢は元暗殺者に恋をする
第32章 甘いひとときを過ごすはずだったのに
 ほんとうに、きれいな顔だちだわ。
 髪もさらさらで柔らかそう。

 ハルの髪に触れようと手を伸ばそうとしたその時──。

「いつまで待たせる。さっさと答えを読みあげなよ」

 まぶたを閉ざしたままハルは素っ気なく言い放った。
 サラは驚いてひっ、と悲鳴を上げる。

「お、起きてたのなら返事くらいしてよ」

 びっくりしたじゃない。

 サラは唇を尖らせた。
 どうやら相手は眠り込んでいたわけではなかったようだ。

 確かに、そう簡単に他人に気を許すような態度をとるわけがないとは思っていたが、それにしても人が悪いと思いつつも言われた通り、仕上げた宿題を一問目から順番に答えだけを読みあげていく。

 その間も耳に入っているのか入っていないのか、反応すらみせないハルにサラは何度も宿題の用紙とハルの顔に視線を交互させた。
 答えは完璧だと思っていた最初の自信も徐々に薄れ、声の響きも次第に小さくなっていく。
 最後の答えを読み上げたサラは、うかがうようにハルを見つめた。

「合ってる、かしら?」

 ようやく目を開いたハルの視線がサラへと転ずる。その瞳には意地の悪い光が揺れ、口許には皮肉めいた嘲笑が刻まれていた。
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