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令嬢は元暗殺者に恋をする
第33章 ハルの過去
 私、もっと強くならなければ。
 しっかりしなければ。

 闇の底でもがき苦しむハルをそこから引き上げるために、私が彼の光とならなければ。

 サラは大きく手を伸ばしハルの頭を抱え髪をなでた。そして、身体を離し間近でハルの深い藍色の瞳を見つめる。

 私がハルにしてあげられること。
 それはいつだって、あなたのために笑っていること。
 あなたの心に少しでも光を差してあげられる存在になること。

「ねえ、もっといっぱい、たくさんいろんなことお話しよう。あの時、初めてお互いが出会った瞬間までの、それ以前の空白の時間をゆっくりと埋めていこう」

「人に話せるような思い出など何ひとつないよ」

「いいの、話せることだけで。ハルのことなら何でも知りたいと思うのが本音だけど……少しずつ、知ることができたらいいなと思うけれど。それに、楽しい思い出がないっていうのなら、私がハルに作ってあげる。これからたくさん。だから、私のことを好きになって。ね?」

 ハルに昔好きな女性がいたということも、いまだにその女性のことを忘れられないでいることも正直、胸が痛んだ。

 その女性に嫉妬してしまう気持ちもある。
 でも……。

「あのね、その女性のことを思ったままでもかまわないの。だって、その女性はハルにとって大切な人だったのでしょう? それは、とても大切な思い出だわ」

 言って、あまりにも切なくて泣きそうになった。そして、似たようなことを夜会の時にシンに言われたことをふと思い出す。

 シンも同じ気持ちだったの?
 あなたもこんなにつらくて切ない思いをしたの?

「私は絶対ハルの前から消えたりしない。だって、ハルが守ってくれるでしょう? でもね、私も守られるばかりじゃないないわ。私もハルの支えになるから」

「頼りない」

「ええ……! この雰囲気で普通そんなこと口にするかしら。でも、あんたに何ができる、余計なお世話だって言い返されなかっただけでもましだと思わなければだわ。私、ハルに頼りにしてもらえるように頑張るから」

 ハルの目元がふと和んだのは気のせいだろうか。
 かすかだけど笑った気がしたのも。

「意外だったよ。俺の境遇に同情して大泣きするかと思った」

 サラはにこりと微笑んだ。

 だって、もう泣かないって決めたもの。
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