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令嬢は元暗殺者に恋をする
第33章 ハルの過去
「ねえ、キスしてもいい?」

 ハルの目を見つめながら、サラは膝立ちになる。
 ほんの少しだけハルを見下ろす格好となった。

 自然と背中に回っていたハルの手が腰に落ちる。
 そこだけが熱をもったように熱い。
 胸がどきどきする。

「あんたから?」

「そうよ」

「へたくそだから、いやだ」

「いやだって……子どもみたいなことを言うのね」

 小首を傾げてくすりと笑い、サラはハルの胸に手を添えた。

「ねえ、恥ずかしいから目を閉じてね。それから、へたなのは許して」

 思えば、ハルにキスをするのはこれが初めではない。
 裏街で、ごろつきどもに絡まれたときにハルに助けてもらい、思いを伝えたくて、いきなり自分からキスをしてしまった。
 それも、大勢の人が見ている前で。

 あの時は、とにかくハルに気持ちを伝えるのに必死だったし、キスと呼べるほどのものでもなかったかもしれないが。

 目を閉じ、サラは顔を傾けハルの唇にそっと自分の唇を重ねた。
 ちろりと舌を出してハルの唇を舐める。

 おそるおそるさっき、ハルがしてくれたキスを思い出しながら真似をしてみる。
 腰に回っていたハルの手に力が入り、さらに身体が密着する。
 反対に攻められるかと思ったが、ハルはあくまで受け身に徹していた。

 心臓が破裂しそう。
 もうこれ以上は恥ずかしくて無理とばかりにサラは唇を離した。

 拙い自分の口づけを相手がどう思っているのか表情を確かめるのも怖くて、そのまま、ハルの首に両腕を回して抱きつく。

「大好きハル。世界で誰よりも一番、好きよ」

 と、ハルの耳元に唇を寄せ、吐息混じりの声でささやく。
 いつもハルが耳元でささやいてくれるように。そして、ハルの柔らかい耳朶にちゅっとキスをした。
 次の瞬間、くつりと笑うハルの声が落ちた。
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