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令嬢は元暗殺者に恋をする
第33章 ハルの過去
「俺に火をつけてどうするの?」

 火? と、聞き返す間もなく、身体が仰け反り床に押し倒されていた。
 髪が白い夜着の裾が、ふわりと大きく虚空に舞い上がりゆっくりと床に広がった。

 窓から差し込む蒼白い月明かりが筋となって床に落ちる。
 その光の上に、両手を広げて寝そべったサラの格好はまるで、月の光に磔にされたかのようであった。

 ハルの両手が顔の脇につく。
 広がった夜着の裾にハルの膝がかかり、身動きがとれない。
 熱を帯びたその藍色の瞳に、サラはどきりと胸を鳴らし息を飲む。

 重なるようにしてハルの身体が覆い被さってくる。
 唇が近づいていくごとに、ハルのまぶたが落ちていく。

 サラはどこかぼうっとした眼差しで唇が重なるその刹那まで、月影に照らされたハルの端整な顔を見つめていた。
 唇が重なった瞬間、サラは床に落としていた両腕をハルの背に回し抱きしめた。
 熱く交わる吐息、絡まる互いの柔らかい舌。
 優しく時には情熱的に……サラも拙いながらもそれに応えた。

 気持ちいい……身体の力が抜けてしまいそう。

 手の力が抜けそうになり、思わずきつくハルのシャツをつかむ。
 ようやく長い口づけから唇が離れた途端、サラの濡れた唇からせつないため息がこぼれる。
 じっとしていることが辛くて、眉根を寄せながらじりっと身をよじらせる。

 どうしよう、どうしよう。
 胸がきゅっとして、すごくせつない。
 身体が落ち着かない。
 私、ハルにもっと愛されてみたいと思ってる。

 こんな気持ち今まで感じたこともない。

 私、どうしたらいいの。

 サラは先ほどのハルの言葉を思い出し胸を突かれた。

『相手を欲して身体がせつない悲鳴を上げ震え泣き叫ぶのを……』

 間近でハルが含むような笑いを浮かべている。
 まるで心の中を見透かすような。
 もう一度、サラは吐息をこぼす。
 震える唇をなぞるようにハルの指先が這う。
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