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令嬢は元暗殺者に恋をする
第34章 勘違い ※
「大丈夫?」

 気遣ってくれるハルの声に、サラはふと思い出したように顔を上げた。そして、ハルの胸に顔を埋めた。

「ねえ、そういえば初めてハルとカーナの森で出会った時、ハルの身体からとても甘くてお花のようないい香りがしたわ。でも、あの匂いを吸い込んだ途端、意識が遠のいてしまったの。でも今はあのお花の香りはしない。どうして?」

 首を傾げて問いかけるサラをしばし見つめ、ハルはさあね、と素っ気なく答える。

 サラはぷっと頬を膨らませた。
 何となくハルとの距離が縮まった気がして嬉しかったのに、また遠ざけられてしまったようでがっかりとする。
 だけど、ここで無理矢理聞き出そうとしても、絶対に口を開いてくれるわけでもないだろうし、話せることだけでいいと言ったのも自分だし……。

「そう……語りたくない、あるいは語れないのね。いいわ」

 ハルのことはゆっくりと知っていけばいい。

 サラは渋々といった様子で机に座り、宿題の続きにとりかかり始めた。が、数分も経たずして大きなあくびを一つ二つと繰り返し、とうとう、首をこくりこくりとさせ始めた。

「寝るな。まだ終わってない」

 前のめりになるサラの首根っこをつかんで、ハルは強引に引き戻した。

「間違えた問題をやり直せ」

「でも、もう眠くなってしまったわ……それに、少し疲れてしまったかも」

 半分落ちかけたまぶたで、サラはハルを見上げ、そのまますとんとハルの胸にひたいを寄り添える。

「おい……」

 ハルの手が頬に添えられ無理矢理上向かせられる。

「ハル、大好き……ねえ、明日も会いに来てくれる?」

 それだけを言うのがやっとだった。
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