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令嬢は元暗殺者に恋をする
第35章 遠い地、レザン・パリュー
「二人が入学した約一ヶ月後にその事件が起き、そして、二人は忽然と学問所から消えてしまったのです。驚いたことに、彼らの身元も何もかもすべて偽りだった。結局、彼らが何者であったのかさえ突き止めることができず。それ以来、レザンのことを調べるのは学問所では禁忌となりました」

「だって生徒としてそこにいたなら、たくさんの人がその二人とかかわったはず……なのに何故?」

「だから、それが不思議なのですよ。確かに彼らと顔を合わせ、会話をした者も大勢いた。けれど、誰ひとりとして彼らのことをよく知らないと口を揃えて言うのです。存在はしていたけど、それはまるで空気のようで、あたかも己の存在を殺していたかのように……」

「先生は会ったことあるの?」

 マイネラー先生は苦い嗤いを浮かべただけであった。

「もし……」

 サラはごくりと喉を鳴らした。

「もし、先生の前にその二人が現れたら先生はすぐにわかる?」

「正直、自信がないですね」

「そう……それで、学問所でレザンの何を調べていたの? 秘密って?」

「これはあくまで噂ですが」

 先生は声をひそめ、部屋には二人きりだというのに何故か用心深く辺りを見渡した。

「レザンにはとてつもない強大で危険な組織があるとか。そして、もうひとつ調べていたのは、ルカシス殿下の暗殺に使用された毒の調査です……とはいえ、調査にかかわった者すべてが殺されてしまったので、これはあくまで噂ですが」

「組織、毒……」

 この国の王になるはずだったルカシス殿下が二十年前、毒殺されたことはサラも知っている。

「先生、組織って何の組織?」

 サラの問いかけに家庭教師は渋面顔をつくる。
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