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令嬢は元暗殺者に恋をする
第4章 私があなたを守ってあげる
「ばかなことを言ってないで、眠っていないのでしょう? どうして眠らないの?」

 それに、とサラはベッドの脇に備えつられた小さな卓に視線を向けため息を落とす。
 用意した食事が手つかずのまま置いてある。

「どうして、食べないの? 食欲がなくても、少しでも食べなければ。それでは、治るものも治らないのよ」

 途端、ハルの感情が一気に褪めていくのがはっきりと感じ取れた。

 熱を帯びていた藍の瞳にたちまち剣呑な気配が過ぎる。
 臆せず、サラはつかんでいたハルの手を優しく包み込むように握る。

 どうすれば、彼の心を開かせることができるのか。
 自分を受け入れてくれるのか。

 それはきっと、とても単純なこと。

 彼を恐れずひとりの人間として接し、ありのままの素直な気持ちで自分の思いを相手に伝えること。
 自分から心を開いていくこと。

 かすかに眉間を寄せ、どういうつもりだと言わんばかりにハルは目を細める。

「見ての通り鍵も閉めたし、この部屋には誰も入ってこられない。私、ハルのことずっと見守ってあげる。誰もあなたの側に寄せつけたりしない。だから、安心して」

 眠って、とサラは優しく言い聞かせるように声を落とす。
 それでもなお、何かを言いかけようとするハルを手で制し、サラは相手の両腕に手を添え、ベッドに横たわらせた。

 抵抗されるかと思ったが、その心配も杞憂に終わった。
 ゆっくりとサラは手を伸ばし、ハルの汗に濡れたひたいに張りつく髪をそっと指先で払う。

 枕に頭を沈め、じっと探るように見つめてくるハルの視線に、サラは小首を傾げる。

「私が、あなたを守ってあげる」

 だから、早く元気になって。
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