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令嬢は元暗殺者に恋をする
第36章 知りたい
「私、初めてレザンの言葉を聞いたわ! すごく素敵な響き。きれいな言葉! ねえ、何て言ったのか教えて」

「物覚えの悪いあんたの頭じゃ、新しい言葉を覚えるなんてとうてい無理。無駄な努力だからやめておけって言った」

「相変わらずね。私はてっきり、素敵な愛の言葉を呟いてくれたのかと思ったわ」

「ぜんぜん違ったね」

「でも、いいの。レザンの言葉を覚えたら、私がハルにたくさん愛の言葉をささやいてあげる」

「へたくそな発音でささやかれても、気持ちが萎える」

「照れてるのね」

「俺が照れているように見える?」

 サラはハルの胸につんと指先をあてた。

「ハルをどきどきさせてあげるんだから」

「へえ、何て言ってくれるの? あんたがレザンの言葉を覚えるまでなんて待ちきれないよ。今、聞かせて」

「だからそれは……言葉を覚えてからよ。今は恥ずかしくて言えないからいや」

「一生覚えられないかもしれないだろう?」

「……」

 サラは目を細めてじっとハルを見据えた。

 うう……やっぱりいつものハルだわ。

 よかったと、心の中でほっと息をもらす。

「でも、とてもやる気が出てきたわ。ね、私頑張って覚えるから。お願い、教えて。興味のあることなら、すごく一生懸命になれると思うの」

「興味のないことも少しは一生懸命になりなよ」

「努力する」

 ねえ、だめかな? と首を傾げるサラを、ハルは立てた片膝にひじをついてじっと見つめる。

「あんた、ほんとうに可愛いね」

 真顔でハルに可愛いと言われ、サラは頬を赤らめる。

「照れてるの?」

「だって、そんな真面目な顔で言うんだもの」

「そう、ならもっと言ってあげる。可愛いよ」

「い、いい! もうやめて! 嬉しいけど、あまり言われると恥ずかしすぎて心臓が……どうしよう、顔が熱いわ。そうだ、宿題の続きしなければ」

 腰を浮かしかけたところに腕をとられ、再びぺたりと床に座り込む。

「宿題はもう終わったよね」

「そう、そうだったわ……」
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