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令嬢は元暗殺者に恋をする
第36章 知りたい
 くすりハルが笑った。
 サラもそれに答えようとするが、うまく笑みを作ることができなかった。
 何故なら、ハルの口許にのぼるその笑いがどこか空々しいものに見えたからだ。

 何より、目が笑っていなかった。
 サラの顔が凍りつく。
 取り巻く空気まで一瞬にして変わってしまったようで、一気に身体の熱が去っていく。

「ところで」

 不意に腕を引かれ、すとんとハルの膝の上に座らされた。
 まるで逃がさないとばかりに二の腕をきつくつかまれる。

「な……」

 何? と言いかけたサラの口が半分開いたまま、表情が固く強ばる。
 ハルの瞳の奥に底知れない深い闇を見た気がして、とてつもない不安と焦燥にかられる。

 間近で見つめ合う二人の間を支配するのは、物音一つない静謐な夜の気配と張りつめた空気。

 どうして、そんな冷たい瞳(め)をするの。

 声を出すことさえできなかった。
 指ひとつ動かすことができなかった。
 息をすることすらままならなくて苦しい。

「さっき、俺が学問所に行ったことがあるかって聞いてきたね。どうして?」

 きつくつかまれた二の腕の痛みに、サラは顔を歪めた。
 心臓が握りつぶされるようだった。

 つい今まで笑いながら普通に会話をしていたと思っていた。
 学問所のことなど、ハルは気にもとめていない素振りをみせていた。

 なのに、まさかの不意打ちだった。そしてきっと、今自分が動揺していることをハルは見抜いているはず。

 真実を知ってしまうのは恐ろしい気もしたが、けれど、これはハルのことを知る大きなきっかけなのかもしれない。
 たとえ何を聞かされたとしても、驚くかもしれないけど、それでもハルに対する気持ちは変わらないという自信はある。

 何もかもすべて受け入れるつもりだ。

 口を開きかけ、しかしサラは咄嗟に思いとどまる。
 学問所でレザンの秘密を知ろうとした者たちは、ひとり残らず殺されてしまった。
 マイネラー先生が自分に語ってくれたことを思い出したからだ。
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