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令嬢は元暗殺者に恋をする
第38章 レザンの暗殺者
 本当は人を斬るとか、ましてや殺すなんて言って欲しくないし、ハルにそんなことなどしてほしくない。

 できるならそんな世界からハルを遠ざけたい。けれど、もし、ハルのいた組織の人が現れたら、ハルは戦わなければならない。
 たぶん、きっと殺し合いになるのかもしれない。
 そうしなければ、ハルが殺されてしまうのだから。
 この入れ墨だって消すことはできない。
 一生、ハルの腕に残り続ける。

 サラは切ない表情で、解いた布を腕に再び結び直すと、こつんとハルの肩に頭を寄り添えた。

「私、ハルに謝らなければいけないわ。ハルがレザンに戻れないってことも知らないで、故郷に一緒に行きたいなんて言ってしまって……ごめんなさい」

「気にしてないよ。いや……嬉しかった」

 頭の上で、ふっと、ハルが笑ってくれたような気がしてサラは顔を上げた。そこには穏やかな微笑みを浮かべるハルの顔。
 本当はこういうふうに笑える人。

「あの時の約束だ」

「約束?」

「裏街で約束しただろう? 俺を本気にさせることができたら、これ以上はないってほど愛してやるって」

「うん、覚えてる……」

 サラは顔を赤くしてうつむいてしまった。
 愛してくれると言ってくれたハルの言葉に胸が熱くなる。
 ふわふわして今にも倒れてしまいそうな感覚。

「あんたは俺を本気にさせた。なら俺も誓う。この先、俺のすべてをあんたに捧げる。あんただけを見つめ、何者からも全力であんたを守る。あんたを傷つける者が現れたら、俺は容赦なくそいつに地獄の苦しみを味わわせてやる。ただし、もし俺を裏切るようなことがあれば……」

 サラは息を止め、ハルの言葉の続きを待った。

「俺はあんたに何をしてしまうかわからない。俺から逃げ出したくなっても、許さない。逃さない。手放さない。誰にも渡さない」

 その言葉にサラは胸をどきりとさせる。
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