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令嬢は元暗殺者に恋をする
第41章 名前を呼んで
「すっかり汗をかいてしまったわ。でも、気持ちいいかも」

 服も汗で濡れてしまいぴたりと肌にはりつく。

 握っていた短剣を芝生の上に置き、サラはころりと寝っ転がった。

 お日様が眩しい。
 右手を目の前にかざして太陽の光を遮る。
 それでも指の隙間からもれる光にサラは目を細めた。

 さわりと吹く風にスカートの裾が大きく膨らむ。
 めくれそうになる裾を押さえようと手を伸ばしたとき、目の端に人影を捕らえサラは慌てて半身を起こす。

「何、遊んでいるの?」

 すぐ近くの木の幹に背をあずけ、ハルが腕を組んで立っていたのだ。
 いつからそこにいたのだろうか。気配すらまったく感じなかった。
 それに、たった今ここにやってきたという感じでもない。

「ハル!」

 勢いよく飛び起き、ハルの元へと駆けていく。

 嬉しそうに顔を輝かせ、サラはハルの背に腕を回し抱きついた。が、すぐにぱっと手を離し一歩後ろに足をひいてハルから離れる。
 ふっと、昨夜のことを思い出したからだ。

 確かにハルの印が欲しいと言ったけど、まさかあんな場所に跡をつけられるとは思いもしなくて……。

 頬が一気に紅潮していくのが自分でもわかった。
 あの時の痛みも熱さも、もうすでに消えてしまったけれど、ハルからもらった印はまだ肌に残されている。

 しらずしらずハルの唇に視線がいってしまい、サラは慌ててうつむいた。
 何だか目を合わせるのも恥ずかしいと顔を上げられず、目の前に立つハルの足下のあたりに視線を固定する。

「い、いつからそこにいたの」

 声までうわずってしまう。

「あんたが短剣を振り回して遊んでいる時からだよ」

 ということは、もうずいぶん前からここにいたということになるのでは。
 それに……。

 やっぱりハルはいつものハルだわ。
 私ばかりがどきまぎして、ハルは相変わらず涼しい顔。
 何かくやしいかも。

「声、かけてくれればいいのに」

「ずいぶんと楽しそうに遊んでいたから、邪魔しては悪いと思って」

 サラはゆっくりと視線をあげた。
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