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令嬢は元暗殺者に恋をする
第41章 名前を呼んで
 ハルの藍色の瞳がふっと翳りを見せた。
 沈んだ表情を浮かべるハルを見て、一瞬、他の男の人のことを尋ねてしまい、機嫌を損ねてしまったのではと危惧したが、どうやらそういうわけでもないらしい。

 憂いを秘めたその瞳は一点を見つめたまま、けれど何かを映しているわけではなく、どこか遠く、寂しげに揺れていた。

「ハル?」

 大丈夫? と、不安になってハルの腕に手をかけ呼びかける。
 すると、ハルはぴくりと肩を震わせ我に返った。

「あ、ああ……レイのこと? とんでもなく強い人だよ」

「とんでもなく? ハルよりも?」

 ハルよりも強い? というサラの問いかけに、ハルは苦い表情で肩をすくめた。

「俺など足下にも及ばない」

「すごく以外だわ」

「レイと剣を交えて勝てたことすらない。一度も」

「それも以外……」

 シンを無理矢理夜会に連れて行った日、サラはシンがファルクと剣を交えるところを実際に見た。
 シンは圧倒的な強さでファルクを負かしてしまった。
 そのシンが、ハルにはかなわない戦いたくないと言い、そのハルはさらに師匠には勝てないという。
 そのレイという人は、どれだけすごい人なのだろうかと、興味さえわいてきた。
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