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令嬢は元暗殺者に恋をする
第4章 私があなたを守ってあげる
 俺としたことが……。

 ひたいに手をあてたまま、あどけない顔で眠るサラに再び視線を向けた。

 動き回るには正直辛い状態であったが、かといって、いつまでもこんな所で悠長に寝ているわけにもいかない。

 それに……。

 左の腕に触れ、唇を引き結ぶ。
 その藍色の瞳に険しいものが過ぎる。

 ベゼレートという医師とあの青年に、腕の入れ墨を見られてしまった。

 テオという奴はともかく、あの医師……。

 ハルはわずかにまぶたを伏せた。

 素知らぬ風を装いつつも、医師の目がかすかにすがめられたことも、その瞳が動揺に揺れ動いたことも、ハルは決して見逃さなかった。

 この入れ墨の意味に思い当たる節がある。つまり、自分の正体を少なからず知っているということであろう。

 北の大陸、レザン・パリューの黒く忌まわしい秘密を……。

 とにかく、あれこれ詮索をされないうちにここを去った方が無難のようだ。

 襲いかかる激痛をこらえ、ひじをついて半身を起こす。
 握りしめられたサラの手をそっと解く。

 それでも一向に目を覚まそうとしない少女の顔をハルは上からのぞき込んだ。
 呆れるくらい本当によく眠っている。

 あんたと、もう会うことは……。

 その時であった。

「やだっ! 私!」

「っ!」

 眠っていたサラが突然、頭を上げたのであった。

 痛いと叫んで頭を抱えるサラと、同時にあごを押さえるハル。
 勢いよく跳ね起きたサラの後頭部が、ハルのあごにまともに当たってしまったのである。

 ハルは声にならない呻き声を上げた。

「ご、ごめんなさい。大丈夫?」

 うろたえるサラの声に、ハルは首だけを傾け上目遣いでサラを見る。

 ふと、サラはあれ? と憮然とするハルの顔を下からのぞき込む。

「だいぶ顔色がいいみたい? 熱は……熱も下がったのね!」

 サラは嬉しそうな声を上げた。

「こうしてはいられないわ! えっと……汗かいたでしょう? 着替えと、それから何か食事を持ってくるわね」

 勢いよく椅子から立ち上がり、扉へとサラは走って行くが、ふと立ち止まって振り返る。

「昨夜の約束、覚えてる? 私がいない間にどこかに行ってしまおうなんて、絶対に許さないんだからね!」

 人指し指を立て、サラはいいわね、と念を押し部屋を出ていってしまった。
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