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令嬢は元暗殺者に恋をする
第45章 心にかかる不安
 ハルがあんたの庭は広くて迷う、と言っていたわりには、広大な敷地内をまるで知りつくしているかのように、ハルの足どりはためらいもなく進んでいく。

 サラとて、奥にまで入って行くのは初めてで、自分の屋敷なのに、こんな場所があったのかと驚いてしまったほどであった。

 林内に踏み込むと一転して辺りは薄暗くなり、ひんやりとした空気が漂い、肌寒さを感じた。

 サラはきょろきょろと回りを見渡しながら、ハルの手に引かれ歩いた。
 薄暗い木々の中、
 上空を覆う枝葉の隙間から、ちらちらと太陽の光が見え隠れした。
 しばらく歩くと、一頭の馬が木に繋がれているのがサラの目に飛び込んだ。

「え? こんなところに馬」

 ハルが連れてきたのだろう、サラは木に繋がれた馬に駆け寄りその背をそっとなでた。

「どうしたの、この馬?」

「今日は少し遠出をしようかと思って借りてきた」

 サラは嬉しそうに瞳を輝かせた。

「ハル、馬に乗れるの! すごいわ!」

「そんなに驚くこと?」

「ハルは何でもできてしまうのね。ねえ、ハルにできないことってあるのかしら?」

「できないこと?」

 ハルは首を傾げてしばし考え込み。

「思い浮かばないな」

 と、しれっと答える。

「そんなことはないでしょう。ハルにだって苦手なこととかあるでしょう? たとえば、お料理とかお裁縫は? 男の人だもの苦手よね」

「それ、あんたの苦手なことだよね? 困らない程度にはできるよ。少なくともあんたよりはね」

「それを言われると返す言葉がないわ。うーん、私、絶対ハルの苦手なこと探してみせるから」

「いちいち探さなくていいよ。そんなことより」

 言うや否や、ハルは軽やかに馬にまたがった。
 手にしていたお弁当の籠を胸に抱え、サラはぽうっと頬を赤らめハルを見上げる。
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