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令嬢は元暗殺者に恋をする
第50章 目覚めて
「冗談だよ」

「冗談?」

「今はね。今は、サラとはゆっくり愛情を深めていきたい。大切にしたいんだ」

「ハル……」

 ふっと笑ってハルはベッドから降りると窓辺へと歩み、空を見上げ眩しそうに手をかざした。

 差し込む夕陽がハルの素肌に橙色の光を落とす。
 淡い光をまとったハルの背中をサラは愛おしげに見つめた。
 振り返ったハルが乾いた服を手に、再びこちらに歩み寄ってくる。
 身をかがめたハルの手がそっと頬に添えられる。

「身体……つらくない? 動けそう?」

「うん、平気……」

 まだ、少しだけつらいけど……。

「服着せてあげる。そうしたら、そろそろ行こうか。夕陽、さっき見たいって言っていただろう?」

 サラは嬉しそうに表情を輝かせた。

「うわあ……」

 目に飛び込んだその光景に、サラは口許に手をあて感激の声をもらした。

 たなびく雲の波間から、いくすじもの黄金の光が地上に降りそそぐ。
 遠くに見えるアルガリタの王宮が、天から差す金色の光をまとい輝いていた。さらに、王宮の向こう、悠々と連なる山々の脊梁が茜色の空に黒い波線を描き、その山の合間に今にも沈みゆこうとする夕陽が輪郭をにじませ溶けていく。

 見る景色は昼間と同じ。なのに色が違うだけでこんなにも世界が変わるとは。
 眼前に広がる夕焼け色に染まったアルガリタの町並みもまた格別だと思った。

「きれい」

 側に立つハルの顔を見上げ、サラは瞳をきらきらとさせた。

「雨があがってよかった。もしかしたら夕陽は見られないかもってあきらめていたの」

「別に今日でなくても、見たいと思ったらいつだって連れてきてあげるよ」

「ありがとう。でもね、今日は特別だから」

 特別と言って、サラはハルから視線をそらした。
 頬が赤いのは差す夕陽のせいばかりではない。

「私、ハルに優しくしてもらえて幸せ」

「どうしたの急に?」

 サラはうん、と声を落としうつむく。
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