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令嬢は元暗殺者に恋をする
第50章 目覚めて
「実は、ほんの少し不安だったの」
「不安?」
「あのね、侍女たちが言っていたの」
「また侍女? 今度は何て?」
「彼と一線を越えた途端、急に態度が冷たくなって、とうとう会ってもくれなくなったって。最初は彼の仕事が忙しいのかなと思っていたけれど、全然連絡もくれなくなってしまったまま、それっきり……」
ハルは呆れたように肩をすくめた。
「……ハルのこと疑ったわけではないのよ。だけど、そんな話を聞いてしまったから、少しだけ、ほんとに少しだけ不安に思ってしまったの」
「それで?」
「私の余計な心配だったみたい」
ハルはにこりと笑ってサラの頭を優しくなでた。
「サラの侍女たちはそういう会話が好きだね。なら、その侍女に言ってあげるといいよ。気の毒だけれど、男を見る目がなかったねって。次はもっとまともな男を選びなって」
「そんなこと……」
言えないわよ、とサラはもごもごと口ごもる。
「もっとも、俺もまともかと言われると、はなはだ疑問だけど」
「そんなことない! ハルは私にとって素敵で最高の人だわ!」
照れを隠すように、サラは丘のふちまで駆けていく。
雨に濡れた草の露が跳ね返り、衣服の裾を塗らしたが、そんなことは少しも気にはならなかった。
緩やかに空は薄紫色に染まり、辺りに薄暮が迫り始める。
街はそろそろ火点し頃。
あちこちの家々から炊煙が立ちのぼり、暗さを増し始めた高い空へゆらゆらと揺れながら消えていく。
ふと、辺りを震わせる笛の音に、サラは振り返ってハルを見る。
「不安?」
「あのね、侍女たちが言っていたの」
「また侍女? 今度は何て?」
「彼と一線を越えた途端、急に態度が冷たくなって、とうとう会ってもくれなくなったって。最初は彼の仕事が忙しいのかなと思っていたけれど、全然連絡もくれなくなってしまったまま、それっきり……」
ハルは呆れたように肩をすくめた。
「……ハルのこと疑ったわけではないのよ。だけど、そんな話を聞いてしまったから、少しだけ、ほんとに少しだけ不安に思ってしまったの」
「それで?」
「私の余計な心配だったみたい」
ハルはにこりと笑ってサラの頭を優しくなでた。
「サラの侍女たちはそういう会話が好きだね。なら、その侍女に言ってあげるといいよ。気の毒だけれど、男を見る目がなかったねって。次はもっとまともな男を選びなって」
「そんなこと……」
言えないわよ、とサラはもごもごと口ごもる。
「もっとも、俺もまともかと言われると、はなはだ疑問だけど」
「そんなことない! ハルは私にとって素敵で最高の人だわ!」
照れを隠すように、サラは丘のふちまで駆けていく。
雨に濡れた草の露が跳ね返り、衣服の裾を塗らしたが、そんなことは少しも気にはならなかった。
緩やかに空は薄紫色に染まり、辺りに薄暮が迫り始める。
街はそろそろ火点し頃。
あちこちの家々から炊煙が立ちのぼり、暗さを増し始めた高い空へゆらゆらと揺れながら消えていく。
ふと、辺りを震わせる笛の音に、サラは振り返ってハルを見る。

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