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令嬢は元暗殺者に恋をする
第52章 薔薇の棘
 そんな目で私を見下ろしても、怖くなどない。

 私はもっと、この身が凍りつくほどの凄まじい目をする人を知っている。
 そう、出会ったばかりの頃のハルの目の方がもっと凄烈な目をしていた。
 他人をいっさい寄せつけない、近寄る者すべてを容赦なく喰らいつくそうとするほどの峻烈な炎を孕んだ藍色の瞳。
 殺されるのでは思ったほど、あの時のハルの目は怖かった。
 それでも、惹きつけられて、ハルの側にいることを許されたくて……。

 だから、どんなにファルクが凄んでみせたところで、あの時のハルとは比べようもない。

「その態度はいったい何だね? それにその反抗的な目。まったく、あなたは女性としてのしとやかさがない。それとも男を知ったら少しは女らしくなるのかな。あるいはもう抱かれたのか? 昼間のひ弱そうな男か? それとも夜会の時の生意気な男か? 両方か?」

 ファルクはにやりと口の端を上げて嗤う。

「どちらにしても、性欲だけはいっちょまえの、女の経験も浅い若造に突かれたところで満足などできなかっただろう? この私が大人の男の味というものをその身体に教え込んであげよう。たっぷりとよがらせてあげるよ」

 足下からぞわりとしたものが這い上がり、サラはぶるっと身体を震わせた。
 鳥肌がたった。
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