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令嬢は元暗殺者に恋をする
第54章 脅しと賭け
 この男の暴力になど屈しない。
 この状況から逃れるため、今は自分の身を守ることだけを最優先に考えて、最後まで抗ってみせる!

 痛みに頬を引きつらせ、噛まれた手をもう片方の手で押さえながら身体を丸めて身悶えるファルクの側をすり抜け、転がる勢いでベッドへと走ると、重なった枕の下に手を差し込みそれをつかんだ。

 あった……あったわ!

 手に触れたそれを握りしめ、すぐにファルクをかえりみる。
 サラが手にしたのは護身用の短剣であった。

 以前、ファルクが勝手にそれも深夜に部屋に現れたことを思いだし、部屋に鍵はかけたが、それでも万が一の時のためにと、眠る前に枕の下に忍ばせておいたのだ。

 まさか、本当にこの短剣を使うことになろうとは思いもしなかったが。

「意外だよ。君がこんなにも激しい娘だとはね。少し驚いてしまった」

 ファルクは噛まれた手の、指の根元から指先に向かって、ねっとりと舌を伸ばし這わせるように舐めあげた。
 ファルクのその仕草に、ぞわりと全身がそそけ立つ。

 気持ちが悪い……。

「それに、自らベッドへ行くとは、嫌がっていたわりには実はその気だったのかな? そうやって男どもを誘っていたのかな? 何も知らないという可愛い顔をして」

 まったく、どうしようもなく嫌らしい娘だと、くつくつと肩を揺らして笑い、ファルクは襟元を緩める。が、ファルクの視線がふと、窓に向けられた。

 つかつかと、窓辺へと歩み、カーテンを束ねるロープを乱暴に引き抜くと、にやりと笑いながらサラを振り返る。
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