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令嬢は元暗殺者に恋をする
第55章 会いたかった
 床には数冊の本と文机の上にあったと思われるさまざまな物が、まるで投げつけたかのように散らかっている。そして、床に転がっている一輪挿し。

 その一輪挿しに挿してあった薔薇が、花弁を散らし無残な姿となって床に落ちていた。

 この部屋で何があったのか容易に想像がついた。
 つまり、駆けつけるのが遅かったのだと、ハルは手のひらに爪が食い込むほどきつく手を握りしめる。

 どこだサラ? どこにいる。

 ハルの視線がふと、部屋の隅に置かれているベッドへと向けられた。
 天蓋つきのベッドから落ちる紗の幕が、開けられたバルコニーから流れる風にゆらりと揺れた。

 凝った闇の中、そこに呆然としたように小さくなって座り込んでいるサラの姿を見つけ、ハルは急いで走り寄る。
 もどかしいとばかりに落ちる薄布を手で払いのける。

「サラ……っ!」

 うつむいていたサラの顔がゆっくりと上がった。
 伏せていたまぶたの奥に、焦点の定まらない虚ろな目を見つけ、ハルは息を飲む。
 かすかに動くサラの唇が、声にはならない声で何かを呟く。

 ハル、会いたかった……。

 唇の動きを読み、目の前の少女を抱きしめようとして、ハルは手を伸ばしたが、その手が虚空でとまった。
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