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令嬢は元暗殺者に恋をする
第55章 会いたかった
 ハルの手が頬から、そっとサラの首筋に滑り落ちる。
 傷口に触れられることを恐れたのか、サラは眉根を寄せ、目をつむって肩をすくめた。

 ハルの指先が傷口を避けるようにサラの首筋を指先でなぞる。
 血は乾いたが、傷口はまだ生々しい。

「手が震えて少し切ってしまったの。でも、あの男、慌てた顔して部屋から去っていってしまったわ。痛みはないし、もう平気」

 だから、心配しないで、とサラはにこりと微笑んだ。

「サラ……」

 身体を包み込むようにサラを抱きしめた途端、小さく痛いと悲鳴を上げ身をよじった。
 きつく力を込めて抱きしめてはいない。

 すぐにサラの身体から離れたハルは、裂かれた衣服に手をかけた。
 サラは見られたくないのかうつむいて、いや、と首を小さく振る。

「ごめん。身体を見せて」

 ハルは、そっとサラの破れた服を脱がせ目を細めた。

 恥ずかしそうに胸元を両手で隠し、身体を丸めるサラの背と脇腹に残された無数の赤紫色の痣。

 そうとう乱暴に、容赦なく痛めつけられたのだろう。
 そうでなければ、こんな痣など残らない。

 あの男!
 小さくて、強く抱きしめたら折れてしまいそうなくらい華奢で、可愛らしくて、だから、大切に壊さないように、怖がらせないように、無理をさせないように、それでも自分の思いを伝えるように、優しく抱いたサラの身体があの男によって、無残にも傷つけられた。
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