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令嬢は元暗殺者に恋をする
第55章 会いたかった
 怖かっただろうに。
 こんなに傷をつけられて痛かっただろうに。
 心も体も悲鳴を上げながら、サラは俺の名を呼び、助けを求めたはず。

「くそっ!」

 思わずもれてしまった言葉に、サラは驚いたように目を丸くして小首を傾げた。

「くそだなんて、ハルがそんな言葉を使うなんて珍しいわ。すごく意外。初めて聞いた」

 ハルでもそんなことを言うのね、とくすりと肩をすくめ無邪気に笑うサラを見て、ハルは眉をきつく寄せた。
 着ていた上着を脱ぐとサラの細い肩にふわりと羽織らせた。

「サラ、短剣を俺に渡して」

「うん、でも指が強ばって……」

 放せないのと、頬を引きつらせて笑いながら答えるサラの手にハルは手を重ねた。そして、きつく両手で短剣を握りしめているサラの指を、一本一本開かせるように解き、短剣を受け取る。

 まだ強ばっているサラの手を両手で包み込み、口許に持っていくと口づけを落とした。

「もう大丈夫だから」

 守ってあげられなくてごめん。

「うん」

「俺が側にいるから」

 もう一度サラは嬉しそうにうなずいた。

「ハルが来てくれて嬉しい。もう何も怖くない。本当よ」
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