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令嬢は元暗殺者に恋をする
第56章 口止め
 侍女は目を見開き、何が起きたのかわからないという様子でハルを見つめ、そして、視線だけを動かし部屋の中を見渡した。

 物が散乱した部屋。
 さらに、ベッドの上、乱れた格好のサラの姿に、侍女はこれ以上はないというほど目を大きく見開いた。

 おそらく、ハルのことを賊か何かと思い、サラを襲ったのだと勘違いしたのだろう。そして、それを見てしまった自分も同じ目にあう、あるいは、もしかしたら殺されてしまうと怯えた。

「んん……っ!」

 侍女のくぐもった声がハルの手のひらからもれる。
 口をふさいでいるハルの手を両手でつかみ、引きはがそうと抵抗を試みるが、本気で押さえつけている男の力にかなうわけがない。

「騒ぐな」

「……っ!」

「騒いだら」

 どうなるかわかっているな、とハルは手にした短剣をくるりと器用に回転させ逆手に持つと、侍女の喉元にあて抵抗する気力を削ぐ。

 まだあどけなさを残した侍女の顔が一瞬にして恐怖に凍り歪む。

 抗うことをあきらめ力なく両手をたらし、声を出すことも、うなずくこともできず、侍女は殺さないでと、必死に目で訴えかける。

「ハル……!」

 ベッドの上からサラがやめて、と叫ぶ。
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