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令嬢は元暗殺者に恋をする
第56章 口止め
 まだだよ。
 まだ、気を抜くには早い。
 少しばかり、おまえには確かめたいことがある。

 泣きじゃくる侍女の頬にハルは手を添えた。
 次は何をされるのかと恐れ、侍女が怯えた目でハルを見上げる。

 男が女性の部屋へ訪ねてくるには非常識な時間だ。
 サラがファルクを自分の部屋に招き入れるはずがない。

 たとえ、何か事情があったとしてもサラがあの男と二人きりになることを望むわけがない。
 ファルクの馬車はトランティアの屋敷の隅、それも人目につかないように止めてあった。

 おそらくファルクはこっそりとこの屋敷を訪れた。

 そのファ ルクが強引にサラの部屋に押し入って来たにしても、すでにみなが寝静まった屋敷内で、何故この侍女だけがファルクがやってきたことを知っていたのか。そして、ファルクが帰った後に、こうしてわざわざ様子を見に来るとは。
 つまり、部屋にファルクを導いたのはこの侍女。

 けれど、ファルクをサラの部屋に通したものの、二人のことが気になった。だから、ファルクが帰った後に心配になってこうして様子を見に来た。

 おそらく、そんなところであろう。

 この侍女とファルクの間にどんな会話が、そして、何が交わされたかまでは知るすべはない。
 だが……。

 ハルは口の端を上げ緩やかな笑みを作る。
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