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令嬢は元暗殺者に恋をする
第57章 サラを手放さない
 サラの両腕に手を添え、ハルは片膝をつく。そして、困ったように眉宇を寄せサラの顔をのぞき込む。

 ファルクに酷い目にあわされても、涙を流さず気丈に振る舞っていたのに、侍女の身を心配してぽろぽろと涙を流すのだ。

 その侍女のせいでこうなったことも知らないで。

「サラ、どうして泣くの? 泣かないで」

 手を伸ばしてサラの頬を濡らす涙を拭い、あらたに目の縁にたまった粒を指先ですくいとる。

「だって、ハルがミリアに……」

「驚かないでと言ったのに、だめだった?」

「ハルのこと信じていなかったわけではないの。でも怖くて……それにいつもと口調が違うし。もしかしたらハルが本当にミリアのことを……」

「傷つけると思ったの?」

 あるいは殺すかと。

「そんなこと、するわけがないだろう」

 サラの目の前でそんな真似をするわけがない。
 そう、サラの見ている前では。

 言い換えればサラの為ならどんなことでも自分はやるだろうし、それこそ非情にも残酷にもなれる。

 もし、あの侍女が約束を破ったら、間違いなく殺してやるつもりだ。
 たとえそれでサラに恐れられ嫌われたとしても。

 だが、俺はサラを手放さない、逃さない、誰にも渡さない。
 それでも俺から離れていこうとするのなら……俺はきっとこの手でサラを殺してしまうだろう。

 サラの頬をそっと両手で包み込み、涙のたまったその目に口づけをする。
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