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令嬢は元暗殺者に恋をする
第57章 サラを手放さない
「ほんとう?」

「ほんとうだよ。だから、お願いだからもう泣かないで。怖い思いをさせてしまって、ごめんね」

 女性の涙に動揺して心を動かされることはない。
 けれど、サラは別だ。

 サラに泣かれるのは胸が痛んだ。
 どうしていいのかわからなくなる自分に困惑してしまう。

 サラは唇を噛んであふれる涙を懸命にこらえようとする。
 そこへ、再び部屋の扉が開き侍女が戻ってきた。

 先ほど、できない、無理だと言っていたわりには、言われた物をきちんと用意して戻ってくるには、さほど時間はかからなかった。
 侍女から冷たいタオルを受け取り、サラの赤く腫れた頬にあてた。
 一瞬だけ、痛みと冷たさにサラは顔をしかめる。

「冷たい……」

「微熱があるね。痛む?」

「少しだけ」

「頬の腫れはしばらくひかないと思う」

「うん……」

「首の傷の手当てをして、それから着替えるけれど、いい?」

 サラはこくりとうなずいた。

「それから、あの医師のところに行こう」

「ベゼレート先生のところ?」

 そう、とハルは答える。

「きちんと診てもらおうね」
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