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令嬢は元暗殺者に恋をする
第57章 サラを手放さない
 それから、侍女が持ってきた薬箱から消毒薬と包帯を取り出し、手際よく傷ついたサラの首筋の手当をする。
 破れた服を脱がせ、用意された服に着替えさせた。

 側にいた侍女はただ立ち尽くして二人の様子を眺めているだけで、まったく、何の役にもたたなかった。いや、役にたたなくても、邪魔にならず、おとなしくしてくれればそれでいい。

 しかし、侍女は顔に手を押しあて、しきりに涙をこぼして泣き言を繰り返すばかりであった。

「私のせいだわ。私がファルク様に部屋の鍵を渡してしまったばかりに。だけど、まさかこんなことになるとは思わなくて。ファルク様がサラ様にこんな酷いことをするなんて。ああ……どうか許して……」

 ファルクにそそのかされ、部屋の鍵を渡してしまったことを侍女は正直に告白する。

 鍵?

 ああ、なるほどと、ハルは納得した。

「……私、仕事を終えて自分の部屋に戻ろうとしたら、ファルク様と廊下でばったりと会ってしまって……まさか、こんな時間にと最初は驚いたわ。でも、ファルク様はとても思いつめた顔で、最近サラ様と会っていないから、会いに来てもサラ様はいつもお屋敷にはいない。だから、どうしても会いたい、二人きりで話がしたいとおっしゃって。だから、私……それにお二人はご婚約をなさっているから、少しくらいなら問題ないと……私は私なりの考えで、お二人のことを思って……よかれと……」

 よかれだと?

 ハルはかすかに眉根を寄せた。
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