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令嬢は元暗殺者に恋をする
第57章 サラを手放さない
 侍女はしゃくり上げるように泣きながら、途切れ途切れにファルクに部屋の鍵を渡してしまった時の状況を話した。けれど、その時、ファルクにキスされたことは口にはしなかった。

 もっとも、婚約者であるサラの前で言えるはずもないであろうが。
 今ひとつ要領を得ない説明であったが、最後はむしろ、自分は気を利かせてやったのだという口ぶりに、ハルは込み上げてくる憤りをぐっと胸のうちに押さえ込んだ。

 とはいえ、ファルクの本質を見抜くことができず、あの男の甘い言葉にそそのかされ、結果、言いなりとなってしまったこの少女も犠牲者であった。

「ミリア、そんなに自分を責めないで。私は平気だから。だから、もう泣かないで」

「でも!」

「ほんとうよ。ハルがいてくれるから、私はもう大丈夫」

「サラ様……あの……」

 あの……と言葉を濁したミリアが渋い顔つきで、ちらりとハルを見る。ここにいる人は誰? サラ様の何なの? とでも言いたいのだろう。しかし、ハルと目が合ってしまった途端、ミリアは慌てて目をそらしてしまった。

「それよりも、ファルクに何かされなかった? ミリアは大丈夫?」

「私は……ああ! すみません……サラ様、どうかお許しください」

 その謝罪の言葉は鍵を渡してしまったことか、あるいはサラの婚約者とキスをしてしまったことか。あるいは両方か……。
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