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令嬢は元暗殺者に恋をする
第58章 解き放つ怒り
「結局、俺のこと知られてしまったね」
薔薇園にたどり着くと、ハルは抱えていたサラを下ろした。
サラが最後に屋敷を見たいと願ったからだ。
「うん……でもね、嬉しくて少しほっとした。私、お母様にハルを会わせたいと思っていたから。あのね、この間お母様に誰かいい人ができたの? って聞かれたから、ハルのことを自慢したの。私の好きな人はとても素敵な人なのよって」
素敵な人か……と、ハルは苦笑いを浮かべる。
自分はそんなふうに言われるような人間ではないのに。
この手は数え切れないほどの人間の命を絶ってきた、汚れた人殺しの手。
「ハルは素敵よ。ほんとうよ。そして、私にとって一番大切な人」
まるで自分の心の中を読み取ったかのように、サラは真剣な顔でもう一度言う。そして、背後を振り返り、今は灯ひとつないトランティアの屋敷を見上げた。
生まれ育ったこの屋敷に戻ることはないかもしれない。
サラの細い肩に落ちる艶やかな月影。
その背がほんの少し寂しそうに見えたのは気のせいではないだろう。
やがて、思いを断ち切るようにサラはくるりとこちらを振り返り、ふわりと笑む。
ふと、その姿がサラの母親の姿と一瞬重なったように見えた。
「ねえ、私のお母様とてもきれいだったでしょう? みんなお母様のこと、すごく美人だって褒めるのよ」
嬉しそうに母親を自慢するサラを見下ろすハルの瞳がふっと和む。
「サラに似ていた」
驚いたように目を開くサラの頬に蒼い月が照らす。
「私がお母様に似ているなんて……嘘よ、そんなこと、今まで言われたことないわ」
「似ているよ、とても。でも」
静かで触れることさえためらってしまうほど儚げで、それでいて芯の強さを秘めた、そんな美しい女性だった。
後、数年もすればサラも回りの者が目を瞠らせるほど美しい女性に変化するだろう。
そのサラを、自分は見守っていくことができる。
いや……。
この手でもっと美しく咲かせてみせよう。
薔薇園にたどり着くと、ハルは抱えていたサラを下ろした。
サラが最後に屋敷を見たいと願ったからだ。
「うん……でもね、嬉しくて少しほっとした。私、お母様にハルを会わせたいと思っていたから。あのね、この間お母様に誰かいい人ができたの? って聞かれたから、ハルのことを自慢したの。私の好きな人はとても素敵な人なのよって」
素敵な人か……と、ハルは苦笑いを浮かべる。
自分はそんなふうに言われるような人間ではないのに。
この手は数え切れないほどの人間の命を絶ってきた、汚れた人殺しの手。
「ハルは素敵よ。ほんとうよ。そして、私にとって一番大切な人」
まるで自分の心の中を読み取ったかのように、サラは真剣な顔でもう一度言う。そして、背後を振り返り、今は灯ひとつないトランティアの屋敷を見上げた。
生まれ育ったこの屋敷に戻ることはないかもしれない。
サラの細い肩に落ちる艶やかな月影。
その背がほんの少し寂しそうに見えたのは気のせいではないだろう。
やがて、思いを断ち切るようにサラはくるりとこちらを振り返り、ふわりと笑む。
ふと、その姿がサラの母親の姿と一瞬重なったように見えた。
「ねえ、私のお母様とてもきれいだったでしょう? みんなお母様のこと、すごく美人だって褒めるのよ」
嬉しそうに母親を自慢するサラを見下ろすハルの瞳がふっと和む。
「サラに似ていた」
驚いたように目を開くサラの頬に蒼い月が照らす。
「私がお母様に似ているなんて……嘘よ、そんなこと、今まで言われたことないわ」
「似ているよ、とても。でも」
静かで触れることさえためらってしまうほど儚げで、それでいて芯の強さを秘めた、そんな美しい女性だった。
後、数年もすればサラも回りの者が目を瞠らせるほど美しい女性に変化するだろう。
そのサラを、自分は見守っていくことができる。
いや……。
この手でもっと美しく咲かせてみせよう。

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