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令嬢は元暗殺者に恋をする
第59章 深い闇へ、落ちていく
 いつ、組織の者が現れるかもわからない。
 どこの誰ともわからない得たいのしれない自分に親切にしてくれたここの人たちを、巻き込むわけにはいかないと思ったから。

「こんな時間にすまない」

「いや、急患が訪れることだってあるからね。僕たち医療にたずさわる者に時間など関係ないさ。そんなことより……」

 いったい、どうしたのだ、と言いかけたテオの視線が、ハルの腕の中でくったりとなっているサラにようやく気づく。そして、その目が何てことだと言わんばかりに大きく見開かれた。

「サラ! これは、いったい……」

「怪我をしている」

「怪我って……」

 あまりにも痛々しく腫れ上がったサラの頬に伸ばされたテオの手が、触れることを躊躇うかのように固まり、虚空で止まってしまった。

「サラ……」

「首筋と顔、口の中も切っている。それと身体中に痣が。ひどい痛みは訴えていないから骨に異常はないはず。だが、よく診てあげて欲しい」

「ま、待ってくれ……まさ、まさかとは思うけれど、サラはその……」

 サラは一度裏街に出向き、ごろつきどもに絡まれ危険な目にあいそうになった。

 その時のことをテオは思い出し、重ねてしまったのだろう。
 考えたくもないことだが、と言葉を濁らせテオはひどく狼狽える。
 目の前の青年が言いたいことを察したハルは、それはないと強く否定した。それは断じてないと。

 テオはほっと息をつき肩の力を抜いた。
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