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令嬢は元暗殺者に恋をする
第62章 報復 -3-
「あの娘を、ベゼレートとかいう、しみったれた町医者の家に連れていったのは聞くまでもなくおまえだね? しかし、無駄なあがきだったようだな。ご苦労さまなことだ。その町医者も、医者の弟子とおぼしき男も、迎えに来たトランティアの屋敷の使者たちに、怪我の状態がよくないから、せめて一日だけでも様子を、などと言ってずいぶんと抵抗したらしいが……」

 そこで、ファルクはおや? と首を傾げる。

「あの娘は怪我をしていたのか? それはつまり私が叩いたせいだというのか? あの医者め! 大袈裟なことを言って……まるでこの私が悪いみたいな口ぶりではないか。だいいち、私はそこまでひどくした覚えはないよ。それに、あの娘は叩かれて当然のことをしたのだ。この私に生意気な口をきき、逆らったから。どうせ、他人に同情してもらおうと、あることないこと言ってあの娘が騒ぎたてたのだろう。まったく、誰にも言ってはいけない、自分で転んだと言いなさいと、あれほど念を押してやったというのに……あのばか娘が! 私の印象を貶めるつもりかっ!」
 
 言うことを聞かない子には、きついお仕置きが必要だ、とファルクは忌々しげに吐き捨てると、親指を口許に持っていき噛み始めた。
 が、すぐにハルの視線があったことに気づき、慌てて口許から指を離す。

「そうそう、あの娘、誰によって医者のところへと連れて来られたのかと問いつめても、最後まで決して、おまえの名をあかすことはなかったそうだ。おまえのことをかばったのだろうね。何とも健気なところもあるではないか。しかし、女にかばってもらうとは、男として実に情けない」

 そうだな。
 貴様に言われたくはないが、事実だな。

「さて、これでじゅうぶん、理解できたかね。どこへ逃げても無駄だということが」

 サラ……。
 目覚めて俺が側についていなかったことを怒っているだろうか。
 それとも寂しがっているだろうか。不安で泣いているだろうか。
 いや、きっと俺のことを心配して心を痛めているだろうね。
 つらい思いをさせてしまって、ごめん。
 結局、離れてしまうことになってしまったけれど、この男の手から、必ずサラを守るから。
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