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令嬢は元暗殺者に恋をする
第63章 報復 -4-
「頼む……勘弁してくれ。おまえは強い。とてつもなく強い。私の負けだ。そう、負けでいい。それでいいだろう? な? な?」

 ファルクの口から情けない言葉が発せられる。
 これが、一個騎士団の隊長だと得意げに豪語していた男の姿か。こんな頼りない男が騎士とは、この国の行く末に不安を抱かずにはいられない。

「ずいぶん、あっさりと負けを認めるのだな。この俺に、実力の違いとやらを教えてやると言っていた、さっきまでの勢いはどうした」

 屈辱と羞恥に顔を歪め、ぐっ、とファルクは喉を鳴らした。
 武器は手元にある。
 けれど、剣を取り立ち上がろうとしないのは、目の前の相手に恐れを抱いたから。

 もう一度剣を握り、向かっていったとしても、結果は同じ。再び容赦ない目にあわされる。勝算はないと判断したのだ。

 懸命な判断だ。
 だが、この男はひとつ見誤っている。
 それは、こちらに許すつもりはないということだ。

「遠慮するな。いくらでも遊んでやる。それこそ、貴様が立ち上がれなくなるまで」

 遊んでやると、あからさまな侮辱の言葉を投げつけられても、それでも、ファルクは決して剣を取ろうとはしなかった。

「そうか。なら、こちらから行こう」

 足を踏み出したハルに待ったをかけ、ファルクはいやだと首を振る。

「く、来るな……来なくていい。来るなっ! 来てはいけない!」

「次は、どうしてやろうか。ああ、そういえば、俺の顔を切り刻み、苦痛に歪ませてやると言っていたな」

「そ、そんなこと冗談に決まっているだろう! や、やめてくれ!」

「何故、そんな怯えた顔をする。この状況から逃れたければ俺を倒せばいい。簡単なことだろう?」

「簡単なことだと……」

 ははは、と乾いた笑いをもらし、ファルクは両足を交互にばたつかせ、もがいて立ち上がろうする。しかし、腰が抜けてしまっているのか、動かした足は無駄に床の上を滑らせるだけ。

 逃げたくても逃げることができない。
 もっとも、逃がすつもりはない。
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