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令嬢は元暗殺者に恋をする
第63章 報復 -4-
 最初の反撃で、ファルクの意気も矜持も根こそぎへし折ってやった。
 それでも剣を取り立ち上がる気概があるのなら、むしろこの男を褒めてやろう。しかし、もはや、剣をとらない時点でこの男に戦う意志はない。

 けれど、そんなことは関係ない。
 元々、この男を徹底的に叩き潰すつもりでここへ乗り込んできたのだ。

 容赦はしない。
 それこそ、泣き叫ぶまで遊んでやろう。

「立て」

「ひっ!」

 情けない悲鳴上げるファルクの胸ぐらをつかみ、無理矢理立ち上がらせる。

「や、やめろ! 手を離して……く、苦し……」

 膝立ちになったファルクは、歪んだ顔でハルを見上げ、降参だという仕草で両手をあげる。

「ま、待て……待ってくれ。話を聞いてくれ」

「貴様の話に耳を傾けるつもりはない。貴様はただ、俺が尋ねたことにだけ答えればいい」

「違う! 違うのだ。金……」

「金?」

「金が欲しいのだろう?」

「何故、金の話になる」

「おまえに、好きなだけ金をくれてやろう。だから……」

「あいにく、金になど興味はない」

 にべもなく言い捨てるハルの言葉に、ファルクはそんなはずはないと、大きく目を見開いた。

「金に興味がない人間なんてこの世にいるわけがない!」

「貴様の尺度で決めつけるな」

「ははっ! 格好つけるな。どんなきれい事を言ったところで、世の中金だ。最後に金がものをいう。金で解決できないことなどない。おまえだってそのくらいわかっているはず。おまえが働いても、一生稼げないほどの金をくれてやる。どうだ? いくら欲しい? 好きな額を言ってみるがいい。おまえの望み通りくれてやろう」

「アイザカーンの暗殺者を雇うのに、借金までしたのではないか? さっきそう言ったように聞こえたが」

 思わぬ指摘にファルクはうっ、と声をつまらせる。が、すぐにいや、と首を振り、両手を大きく広げた。

「問題ない。私にはもうじきトランティアの財産が手に入る。とてつもない財産が! そうすれば、金などいくらでも私の自由になる」

 頭の悪い男だと、ハルは心底呆れたように息をもらす。
 サラと婚姻を結び、トランティア家を乗っ取ろうとするこの男の計画を阻止してやろうとしているのに、それでもまだ、財産が、と愚かなことを口にするのか。

 それに……。
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